二度死んだ男。

父の日ということで、親父にアロハシャツをプレゼント。
とても喜んでくれた。
親父はじいちゃんに負けず劣らず破天荒で型破りな酒好きの元雀士。
1998年に脳内出血で倒れて以来、17年間オフクロが自宅で献身的な介護を続けている。
倒れた日には「親戚中集める準備を」と医者に言われ、もう終わりだと覚悟したけど、
2度の開頭手術を乗り越え、なんとか一命を取り留めた。
右半身不随で言葉も出ないが、こっちの話はなんとか理解してるよう。
今じゃもちろん酒、煙草もやらず、健康的な食事管理のおかげで、
倒れる前より健康状態がいいんじゃなかろうかと思うほど血色がいい。
このままじゃ、オフクロが先に介護疲れで弱って逝くんじゃないかと不安でならない。
もし、この状態で先にオフクロが逝ってしまったら、
オレは介護に追われて音楽どころではなくなる可能性もある。
理解力や言語中枢である左脳が壊滅した親父は、
残った右脳の司る本能や理性、感覚で生きているので、
ひとつ気になったら赤ちゃんのようにだだをこねて、周りを困らせる。
ある日、親父がオレに何かを必死に伝えようとしてるんだが、全くわからない。
電気を点けろといってんのか?
カーテン閉めろといってんのか?
テレビのチャンネルか?
どれも違うと半ば発狂状態。
オレが困ってたら、オフクロが帰ってきて親父の訴えを聞く。
正解は「壁に掛かってる写真額が少し斜めになってるからキチンと直せ」だと。
長年連れ添った夫婦の「あ・うん」には驚きつつも、
・・・んなもん、わかるかい!
あまりにわからん過ぎてオレも泣きそうやったわい!
元々神経質だった親父が左脳のみの本能主体になって赤ちゃん還りのように生きてるから、
よけい神経質が際だってる。
親父の机の周りにはキッチリと場所決めされた鏡やティッシュなどが整列している。

施設に預ける話もオフクロとしてたけど、こんな状態なんでいくらプロの介護士でも大変やろうし、
何より親父の意思が伝わらないからストレスで可哀想だと・・・。
風呂に入れるのも重労働だ。
オレも先ではこうなる可能性は充分にある。
そうなったら誰がオレの介護してくれるのか。
嫁早くもらったほうがいいのかな。
いや、オレの介護目的で結婚を考えるのは失礼だ。
息子どもはきっと自分らの生活に四苦八苦だろうから、あてにならないし。
こんな時にムスメがいたら心強いんだけどな。
話がそれました・・・。


時折介護に疲れ、ため息を吐くオフクロの姿を見るにつけ、
あの日いっそのこと死んでくれてたほうがよっぽど良かったのかも・・・
と思うこともあった。
若い時、暴走族のハシリだった親父は車で暴走の末、民家に激突し、
救急車で運ばれ瀕死の状態だったがこの時も一命を取り留めた。
強運の持ち主なのかどうなのか。
親父の顔面の右側部分まゆげ辺りにはこの時の事故の影響で一部骨がない。
「オレは一度死んだ男だ。そう思えばどんな逆境でも怖くもなんともない。」
と昔、親父が良く言ってた。
脳内出血で死にかけたから二度死んだ男になるけどな・・・。
007か!
オレが子供の頃よく見てた風景は、玄関で酔い潰れて寝てるか、
パンツ下ろしたままトイレに顔を突っ込んでる親父の姿やった。
そんな親父は友人付き合いや周りをより大切にしてた。
オレもいろんな場所に連れてってもらった。
思い出は沢山ある。
ここには書けないエピソードも沢山ある。
昭和8年満州で生まれ激動の昭和を駆け抜け、働きまくって遊びまくったあげく
晩年は半身不随となり、散々困らせたオフクロに介護されている親父。
なんかオレも見えないDNAのレールに乗ってる感じがして気味悪い。
あの頃の威厳があって怖かった眼光は今はもうない。
しかしオレはそんな親父を尊敬している。
ハチャメチャやったけど大好きだ。
今は赤ちゃんみたくなってしまったけど、逆に愛おしい。
オフクロの体調が一番心配だけど、親父の髭を剃ってあげながら
時に楽しげに親父に話しかけてるオフクロを見てたら、
まだまだ死んで欲しくないと思う。
もう少し、オフクロと生きていてほしい。
オフクロが大変だけど・・・。
親父よ。父の日に感謝申し上げます。
もうちょっと親父とオフクロに楽になってもらうようにオレも頑張る。
プレゼント渡したら子供のように、目を真っ赤にして喜んでくれた。


▲アロハ似合ってるね。ハットは去年の父の日にプレゼントしたもの。